Vintage & Reproduct

色落ちて、湧き上がる、魅力

原宿のヴィンテージショップ「BerBerJin(ベルベルジン)」のディレクター藤原 裕(ふじはら ゆたか)氏が自身の提供したヴィンテージデニムと芸術的な仕上がりのリプロダクトデニムについて 贅沢に解説したドキュメンタリーフィルム。

日本屈指のヴィンテージデニムマイスターとしても知られ、様々なブランドのデニムをプロデュースに携わる藤原氏。彼の著書でありKADOKAWAから出版された『教養としてのデニム』や、毎日更新のYouTube『ベルベルジンチャンネル』もデニム人気を後押ししている。

彼が訪れた岡山県倉敷市美観地区は、国の重要伝統的建造物群町保存地区にも指定され、和風建築と洋風建築が並列する“古くて新しい風景” は全国でも珍しい。
SETO INLAND LINKの舞台である倉敷美観地区「児島虎次郎記念館」で 色あせるからこそ、輝きを増すデニムの魅力にふれる。

倉敷美観地区ならでは「街のヴィンテージ感」

倉敷美観地区は昔ながらの街並みや純和風建築と、レトロモダンな洋風建築が入り混じる全国的に珍しい場所です。

倉敷美観地区で純和風建築と言えば、老舗旅館の「旅館くらしき」さん。
以前宿泊した際には、昔ながらの造りと東京にはない落ち着いた雰囲気が「倉敷美観地区ならでは」だと感じました。料理もとても美味しく、また泊まりたいと感じる素敵な場所でした。

児島虎次郎記念館での「ヴィンテージデニムとリプロダクトデニムの並列展示」

立派な洋風建築が目印の児島虎次郎記念館では、SETO INLAND LINKの大きな見どころであるヴィンテージデニムとリプロダクトデニムの展示が行われています。
僕は原宿のショップ『ベルベルジン』でディレクターをしており、多種多様なデニムに関わることがライフワーク。SETO INLAND LINKを通して岡山に足を運ぶことも増え、嬉しい限りです。
そして今回、僕の私物も展示しています。さっそく見ていきましょう。

Levis 501XX /Buckle Back 1942s

Levisの1942年モデル。第二次世界大戦のはじまる約1年前に発売されていたモデルであることから「大戦モデル」とも呼ばれ、ジーンズの後ろにバックルというベルトがついていることが大きな特徴です。

通常のLevis501XXよりも生地が厚く、フロントはボタンフライになっています。
バックポケットの内側に隠しリベットがあり、リベットの種類からも1942年のモデルだと断定できます。年代がはっきりと断定できるヴィンテージデニムは非常に評価が高く、貴重な存在です。
リプロダクトデニムにも、年代を判定する上で欠かせないバックルや隠しリベット等の特徴が散りばめられており、ヴィンテージを忠実に再現しています。

Levis 507XXE size52 /split back(T-Back) 1950s

胸ポケットが一つあるジージャンを「ファースト」と呼ぶのに対し、こちらの胸ポケットが二つあるジージャンを「セカンド」と呼びます。また、注目すべきは、ロット番号である507XXEの最後についた「E」の文字。これは「エクストラサイズ(大き目のサイズ)」の表示で、近年のカタログだと50までしかサイズ展開が無いのですが、こちらのジージャンは実寸を測ってみると52あります。さらに、レザーパッチには54とサイズが表記されており、使用される中でサイズが縮んでいったことが分かります。

サイズが46を超える大きいジージャンは生地幅が足りなくなるので、背中に縦向きの縫い目ができます。加えて、Levisのジャケットは背中に横向きのステッチが入る。後ろから見るとTの字に見えるため、僕は20年前くらいから「Tバック」と呼び始めました。アメリカではスプリットバックとも呼ばれています。

Tバックがついたビックサイズのジージャンは本当に大人気で、希少。普段からデニムに関わっている僕でも、国内で6着しかお目にかかった事が無いほどです。相場で言うと500万円前後の金額がつくでしょう。こちらもリプロダクトで完全に特徴を再現してもらっており、背中のTバックの仕様や、ステッチ上にできた色落ちの再現に技術が光ります。

Levis 501 “66”model/1974s

今回の展示にでは、ヴィンテージデニムの色落ちの魅力を感じていただきたいと思っておりますので、ただ古いジーンズではなく、色落ちの表現もしっかり出ているものを提供させていただきました。こちらは、自分にぴったりのマイサイズをデッドストック(新品状態)で購入し、40歳の誕生日におろして約1年7カ月間育てたものです。

常にこのジーンズを履いて行動し、アメリカの買い付けにも行きましたし、タイの野外イベントにも行きました。現在の色落ち具合で完成されたと思っているので、これ以上色が落ちないよう、大切に履いています。一番履き込んだ、思い入れがあるジーンズですね。

Levis 213 /1930s

今回の展示内だと比較的に古い1930年代のモデルです。このジージャンは、506XXの「廉価版」として、あえてリーズナブルに作られたもの。例えば、当時の501XXが9800円で販売されていたとしたら、こちらは7800円くらいで売られていたような感覚です。しかし、生産数が少なかったために価値が上がっていったという面白い経緯があります。

ボタンも通常であればシルバーボタンがついているのですが、廉価版では中央に穴が開いたドーナツボタンがついています。リプロダクトでは、ワークウェアの特徴であるシンプルなシルエットや、黒ラッカーのドーナツボタン等のディテールも表現しています。

Levis 501XX  1922model

こちらは、Levis 501 の1922年モデルです。この年からベルトループがついたことから「22モデル」とも呼ばれています。昔の労働者はサスペンダーでジーンズを吊って履いていましたから、以前のLevis 501にはベルトループがついていないのです。サスペンダーボタンやバックルバックがついていたり、Levisの目印である赤タブがついていなかったり、特徴が満載のモデルだと感じます。保管状態も含めて、非常に価値のあるジーンズです。

小物3点

こちらは人形用のオーバーオールとジーンズです。Leeが「バディ・リー」という宣伝広告用の人形を作っていた過去があり、1930年代に着用させていたと考えられます。また、一番下のオーバーオールは、カナダのGWGというブランドのものです。当時の社員が営業をする際に使用したセールスマンサンプル。商品ではなく“サンプル”なので、非常に点数が少なく、なかなか市場に出回らない珍しいアイテムです。

Levis 501 BigE Style /1967s

今回の展示で、一番色落ちが激しいジーンズです。501の中でも“BigE”と言われる特大サイズで1967年頃のジーンズだと推定されます。よく見ていただくと、フロントのヒゲの色落ち、ひざのハチノスの下に更にもう一つ色落ち部分があります。通常だとヒゲ、ひざ裏のハチノスだけしかできないため、この色落ちは大変珍しいのです。

僕の予想ですが、おそらくアメリカで漁師さんが履いていたと思われます。ゴムの長靴を履き、ジーンズの裾をブーツイン、さらにゴム引きのようなものを履くと、くしゃくしゃになった部分が長靴やゴム引きで擦れ、芸術的な色落ちになったのでしょう。こちらのリプロダクトデニムでは、リジットの状態からそのまま履き続けたからこそできた濃淡のコントラスト、特徴的なリペア部分も忠実に再現されています。表現が一番大変なジーンズだったのではないでしょうか。

Levis 506XXE size46 /split back(T-Back) 1942s

胸ポケットが一つあるタイプのジージャン、いわゆる「ファースト」モデルです。そしてロット番号506XXEにはエクストラサイズの「E」の表示があり、実際のサイズも46と、今大人気となっているビッグサイズ。もちろん、背中にはT字のスプリットバックがあります。

こちらのジーンズが今回の展示会場での最高値となるものであり、まさにデニムの真価と将来性を感じさせてくれる一本です。リプロダクトの色落ちの表現と、細部の加工が完璧で、パッと見ただけでは瓜二つ。本当に芸術的な仕上がりだと感じました。

藤原氏が考える、地域のデニム産業の未来

今回、「SETO INLAND LINK」という大きなイベントを開催するにあたり、癒toRi18株式会社の畝尾さんからお声がけいただきました。「デニムの魅力をもっと広めたい」というお互いの気持ちが合致し、ヴィンテージデニムとりプロダクトデニムの展示が実現。多くの方々にデニムの文化や歴史に触れて頂けたかと思います。
僕の個人的な意見ですが、デニム文化を発信する中で考えているのは「デニムの専門学校をつくりたい」ということ。ここ岡山県倉敷市の、児島で地域産業を盛り上げるきっかけとなるような専門学校ができたらいいんじゃないかと思います。

PROFILE

藤原 裕(ふじはら ゆたか)/BerBerJinディレクター

デニム人気の立役者であり、ヴィンテージデニムブームの火付け役。1977年高知県生まれ。東京は原宿のヴィンテージショップ「BerBerJin(ベルベルジン)」のディレクター。日本を代表するヴィンテージデニムアドバイザーとしても知られ、様々なブランドとのコラボレーションや、デニムのプロデュースに携わる。著書には『教養としてのデニム』(出版:KADOKAWA)、YouTubeでは『ベルベルジンチャンネル』が人気を博している。

DESTINATION

倉敷美観地区

特に倉敷川周辺は倉敷川畔伝統的建造物群保存地区(くらしきがわはんでんとうてきけんぞうぶつぐんほぞんちく)の名称で国の重要伝統的建造物群保存地区とされている。白壁・なまこ壁の屋敷や日本最初の西洋美術館大原美術館等が代表的な建築として挙げられる。