―新旧のオブジェクトが交差する街、倉敷美観地区―
最新のファッションからヴィンテージまでを追うファッションキュレーターが倉敷美観地区のポイントをめぐるドキュメンタリーフィルム。
日本を拠点に、セレクトショップのブランディングや世界中での買い付けに携わるファッションキュレーター (愛称、以下:ポギー)トラッド、ヴィンテージ等のジェントルマンなアイテムの中にもストリート感のあるきらめきを散りばめたアイデンティティある着こなしと、アイコニックな髭がチャームポイントだ。
彼が訪れた倉敷美観地区は、国の重要伝統的建造物群町保存地区にも指定され、白壁と洋風建築が交差するレトロモダンな街並みが今なお残る場所。新旧オブジェクトの交差点とも呼べる倉敷美観地区の街をポギー氏が歩くことで見つけた「小さなランドマークたち」をたどる。
歴史のつづく街、「倉敷(くらしき)」
ポギー氏:
倉敷美観地区は幕府直轄の「天領地」。政治の中心となり、栄えていった歴史があります。明治時代に入り、クラボウ(倉敷紡績)二代目の大原孫三郎が築いた財産を美術館、洋風建築の銀行や郵便局に還元していったそうです。
僕が長年携わっていたセレクトショップでは世界中の良い物を買い付けし、ミックスして店頭に並べるので、昔ながらの和風建築の中に洋風建築が馴染んでいる美観地区の「ミックス」加減が心地良いと感じました。
それでは、先ず日本最初の西洋美術館として名高い「大原美術館」へ向かいましょう。
大原美術館
学芸員さん:
大原美術館に入って正面に児島虎次郎(コジマトラジロウ)の「和服を着たベルギーの少女」という絵がありますが、実は、この美術館全体の絵を買い付けにヨーロッパ中を巡ったのは他でもない児島虎次郎なんです。
こちらにあるモネの「睡蓮」は、実際にモネ本人に会って絵を購入しております。
次にエル・グレコの「受胎告知(じゅたいこくち)」をご案内いたします。
ポギー氏:
本物は初めてお目にかかります。迫力がすごいですね。
学芸員さん:
大原美術館でいちばん古い絵(オールドマスター)です。400年以上昔の絵画ですが、児島虎次郎が買い付けを行いました。「400年も昔の絵画がなぜ児島虎次郎の時代に買われたのか?」というと、当時ピカソを代表とする著名な画家たちの中で古典回帰運動が起こっていたから。エル・グレコの「受胎告知」は宗教画で、描かれた時代も古いですが、前衛的な魅力があることから再ブレイク。ちょうどその頃に児島虎次郎が見つけた作品です。
ポギー氏:
当時で言う「新しい作品」だけでなく、「ヴィンテージ的な感覚の作品」も児島虎次郎は同時に目をつけて買い付けていたということですか。児島虎次郎の先見の明には舌を巻きます。
学芸員さん:
最後に、当館の庭もご覧ください。フランスのパリ郊外にあるジベルニー村から株分けした睡蓮が開花しています。
ポギー氏:
現地のモネの庭から分けてもらったものがここにあるのですね。
鑑賞を終えて
ポギー氏:
当時から、画家本人に会ってアートを購入していたことに感動しました。児島虎次郎がヨーロッパを訪れていた頃は、ジャポニズムの流れが強くなっていた頃。海外の人々の方が日本のことをよく知っていると感じたのかもしれませんね。そういった状態に気づき、世界の絵画を筆頭に、その他、大原美術館内に所蔵されている多くの民芸品までを幅広く集めたのかと思います。
次の目的地へ
次に、生花を樹脂で閉じ込めてブローチにしているギャラリーへ向かいます。しかも、制作を40年続けられているということで、非常に興味深く感じたお店です。
ギャラリーさいじ
ポギー氏:
ヨーロッパのジェントルマンがパーティーの際、胸元に生花をさす感覚で、カジュアルなジャケットのコーディネートに、生花風のブローチをつけるとおもしろいと思いますね。
ブローチの制作では花を摘むタイミングが重要という話をお聞きしました。満開に咲き切る前の花を選ぶことで、ブローチにした際にもちょうど良い咲き加減になるのだそうです。
ポギー氏:
今から向かう山陽堂は、知人から「面白い店がある」と聞いた場所です。昔のおもちゃ、ビクター犬がずらりと並ぶ屋根、貯金箱の展示室があるなど、雑多な雰囲気が魅力的な場所だそうです。
山陽堂
ご店主:
当店では、各棚で別々の方が出品をしているスタイルをとっています。
古いものがお好きな方、珍しい物を集める趣味のある方が、昔大事にしていたものをここにおいて下さいます。ただオークションに出すのではなく、ここで実際に見てもらって、本当の良さを感じてもらい購入いただく。けっこう掘り出し物が多いんですよ。
ポギー氏:
加えて2階にあるビクター犬コレクションの展示室も面白いですよね。
なぜビクター犬グッズを集めようと考えたのでしょう?
ご店主:
ただ好きという他ありませんね。純粋に犬が好き、音楽が好きというだけなんです。
次は貯金箱のコレクションをご案内いたします。ここのコレクションもかなり個性が濃いんですよ。話し出したらきりがないくらい。
これは貯金箱の原型です。明治の頃は丸い形のものがほとんどで、「貯金玉」と呼ばれていました。
ポギー氏:
店主がリコメンドしていたこちらの「仏壇貯金箱」はユーモアたっぷりで最高ですね。どのコレクションも見応えがありました。
移動中
ポギー氏:
犬が好き、音楽が好きとはシンプルなことですが、あれだけのコレクションを集めるとなれば時間も体力も必要です。何かひとつのことに集中して掘り下げていくことや、愛があるカルチャーには頭が上がらないですね。
美観地区の近くに山陽堂のような空間があることが、また面白味のひとつだと思います。
さて、これから「旅館くらしき」さんで昼食をいただきたいと思います。
旅館くらしき
ポギー氏:
美味しい!やはり和食は身体に馴染みます。色とりどりの季節の食材が美味しいだけでなく、とても華やかですね。
さて、旅館くらしきさんで一番有名なお部屋である「巽の間(たつのま)」をご紹介します。
ここには、以前僕も泊まらせていただいたことがあります。
古い家具、新しい家具がMIXされてており、良い意味で見分けがつかない。自分たちの職業で例えるとコーディネートが上手いという感覚で、とても勉強になりました。
司馬遼太郎や棟方志功も実際にこの部屋で過ごしていたそう。自然光が天井近くの小窓から差し込み、気持ち良い空間です。
Profile
コギ ポギー モトフミ / ファッションキュレーター
愛称はPOGGY(ポギー)さん。ファッションキュレーター。
1976年札幌市生まれ。1997年ユナイテッドアローズに入社。2006年にリカー、ウーマン&ティアーズ、2010年にユナイテッドアローズ&サンズを立ち上げる。2018年に独立し、現在は渋谷パルコ内の2Gのファッションキュレーターや、ヨウジヤマモト社のコンセプチュアルプロジェクトWILDSIDE YOHJI YAMAMOTOのコラボレーションキュレーターを手がけている。その他Levis®Made&Crafted® ×POGGYTHEMANコレクション、JIMMY CHOO / ERIC HAZE curated by POGGYコレクションを世界で発売するなど、活動は多岐に渡る。ディレクターとキュレーターを兼任している敏腕ぶりと、穏やかな声色で、雑誌を始めとするメディアにも数多く出演。
DESTINATION
倉敷美観地区
特に倉敷川周辺は倉敷川畔伝統的建造物群保存地区(くらしきがわはんでんとうてきけんぞうぶつぐんほぞんちく)の名称で国の重要伝統的建造物群保存地区とされている。白壁・なまこ壁の屋敷や日本最初の西洋美術館である大原美術館等が代表的な建築として挙げられる。